最近、ちょっと憤ることがあります。
ヘアケア製品や基礎化粧品の開発は難しいもので、一朝一夕にはできません。
私は美容師をしながらヘアケアやスキンケア商材を開発するセルフ社畜ですが、それはもう大変な労力を費やしております。
毎日朝から晩までのサロンワーク。
週に数回のシューティング(撮影)、お付き合いのある企業様との会合。
化粧品原料の手配や情報収集、処方の組み立てや計算、さらに国内外問わずに毛髪科学や皮膚科学の論文を読み漁り勉強。
その合間を縫って製造元や原料メーカー、容器メーカーとの商談やミーティングと、もう寿命が縮む思いでこれらのタスクをこなしています。
何故こんなくだらない話をするかというと、昨今の美容師のレベルの低さに辟易としているからです。
普段は見て見ぬふり、自分には関係ない話なので華麗にスルーしているのですが、最近はちょっと見過ごせないレベルに達しています。
念を押しておきますが、レベルの低さとは技術的な意味合いではなく、知識のお話。
むしろ、技術的な意味合いでは私が下っ端だった20年前と比べて今の若手美容師さん達は器用で賢く「若いのに上手だな」と感心することが多いです。
私も勉強になることも沢山あります。
その一方で、ヘアケアや薬剤に関しては未だに低レベルな印象です。
その割にはSNSを通じてやたら珍妙な発信をする美容師が増えています。
中には「本当に美容師ですか?」と聞きたくなるような壮大な知ったかぶりを誇る方もいて、色々と思うところがあるので筆を取ります。
前置きが長くなりましたが、今回は化粧品の話から逸れますが「どうやって偽物インフルエンサーを見抜くか」的なお話をしようと思います。
【○○オタクは信じない】
まず最初にネットやSNS上では、
「美容オタク」
「ケミカルオタク」
など、やたら『オタク』を主張するインフルエンサーが散見します。
派生型で、
「ヘアケアのプロ」
「美髪のプロ」
「髪質改善のプロ」
等を謳う人も見受けられます。
要は「ちょっと化粧品に詳しい一般人ですよ」的なニュアンスを醸しつつ、やたら上から目線でメーカーの商品を評価する人達ですね。
分かりやすいのでは「☆いくつ!」みたいなやつね。
そういった評価自体を悪く言うつもりはありません。
時と場合によっては、そういった方々が消費者とメーカーの橋渡しとして重要な存在になるのも理解できます。
しかし、個人的にそれは「知識を持たない素人目線」だから許されるのであって、プロの美容師はちょっと違うかなとも思います。
プロを名乗って商品を評価するのであれば、変な肩書でお茶を濁さずにプロとしての責任を背負うべきだろうと。
改めて言いますと、美容師とは「ヘアデザインのプロ」です。
確かに、アシスタントからスタイリストへの成長過程で多少の薬剤の知識は勉強します。
しかし冷静に考えてみて、大学の理工学部で学ぶようなレベルを専門卒が理解できると思いますか?
有機化学や無機化学、界面化学や高分子化学などなど、こういったカテゴリの存在さえ知らない美容師が理解できると思いますか?
つまり、美容師は『経験を必要とする技術的なヘアケア』はともかく『化粧品の調剤や処方』のプロではないということです。
実際に見てみると『○○オタク』を名乗る美容師は、ほぼ全員が極めて薄い知識で商材を判定しているように見えます。
ぶっちゃけ内容はググればどこかに書いてあるようなものですし、ドヤ顔で語るようなレベルには至っておりません。
例えば、シャンプーの例を挙げると、
■石油系界面活性剤は肌に悪い
(洗浄性の強弱の問題、石油由来=肌に悪いわけではない)
■ブルターニュ産の海泥配合で髪を補修
(泥をつけると髪を補修する謎理論)
■海のミネラルが髪を補修
(海水に髪を浸せば髪を補修できる謎理論)
■オーガニック認定を受けた天然オイルがフケや痒みを予防する
(オーガニックじゃなくても植物油は保湿効果を持つ、ただシャンプーに混ぜる必要は無い)
■94,7%が天然由来成分だから肌に優しい
(残りの5,3%は人工物で肌に悪いのか?)
これらは私が実際にインスタグラムで2分で集めた情報です。
特徴としては、ドラッグストアで買える市販の商品をランキングするのがお好きな模様。
恐らく規模の分かりづらいベンチャー企業を怒らせるのが怖いのだろうと推測しますが、大手メーカー相手なら何を言っても良い訳ではないと思いますが。
いずれにせよ、どの美容師さんもまるでヘアケア商材のプロのように語っておいででした。
もはやツッコミどころしか見えないような残念な内容でしたが、それでも消費者には分かり易くて好評なのでしょう。
【プロの意見は地味】
ちなみにですが、よほど悪質な商品でなければ私は他社の製品の優劣には触れません。
サロンワーク中ではよくお客様に「アレってどう?」と聞かれるので、その時には正直に答えたりもしますが。
基本的には『本人が気に入っていて、特に不満が無ければ使えば良い』というスタンスでいます。
便利な時代なので、ちょこっと調べれば化粧品に配合された成分はすぐに調べることができます。
しかしそれはあくまで表面的な情報であり、同じ成分名でも原料メーカーが異なれば内容も当然異なりますし、作用も全く同じとは言えません。
端的に言えば「成分だけ見ても100%正確には分からない」というのが私の意見です。
どの原料メーカーの素材を使っているかなんて、製造元にしか分かりませんから。
ついでに言えば、配合濃度も正確には分かりません。
「何だよ、分からんのかい」と言われそうですが、化粧品の製剤は一般の方が思うよりも複雑なものです。
そして、製剤工程を組み立てるのは原料を選定するのと同じくらい大事なプロセスです。
美容師で原料の知識に精通し、どういった工程でヘアケア商材が完成するのかを知っているのは極僅かでしょう。
ましてや、製造工程を見たことある人なんかほとんどいないんじゃないでしょうか。
ぶっちゃけ、プロから見れば勉強した人かどうかはすぐに分かります(本当)
とはいえ研究者ばりに勉強し、正しい知識を身に着けた美容師がいないわけではありません。
私は今のところ2人くらいしか知りませんが。
【タイアップとステマ】
こちらは定期的に問題となってますね。
特にSNS上のステマ判定は厳しくなっているそうで、しかも過去の投稿も含めて改善命令が出されることもあるみたいです。
一部のインフルエンサーは戦々恐々としているのではないでしょうか。
特に企業から贈呈された商品を宣伝する際には、ほぼ必ず『タイアップ投稿』と表示されるようになりました。
このあたりは言い始めたら全部ステマな気がしないでもないですが、とにかく企業の依頼により「コレ良いよ!」とアピールするわけですね。
実際にはどういった点をアピールするかまで企業側が指示することが多く、言い換えれば「言葉使い以外は投稿主の言葉ではない」とも取れます。
特にヘアケア商材に関しては、どのインフルエンサーを見ても驚くほど同じ商品しか紹介されませんね。
【NO.1商法】
コチラも過去に問題となっていましたね。
いわゆる『○○ランキング1位!』というヤツです。
他にも『消費者の95%が満足!』とか、『美容師の96%がオススメ!』なども同じ括りと言って良いでしょう。
前者は調査方法が異次元で、要はリサーチ会社を名乗る人たちにお金を払えばランキングにねじ込んでくれるというもの。
後者も似たようなもので『○○%が満足』の称号をお金で買い取るという形になっています。
化粧品ブランドを創設すると、週1くらいのペースで営業メールがわんさか来ます(笑)
大きな声では言えませんが、大体80~120万円くらいが相場の模様です。
【まとめ】
というわけで愚痴っぽい話になってしまいましたが、美容マーケティングの裏側は垣間見えたかなと思います。
これらに該当しないメーカーの商品でも、実際のホームページやSNSアカウントではグレーゾーンな商品紹介をしているメーカーも少なくないと思います。
我々には薬事法・薬機法に則ったルールに沿った広告の在り方を作る責任があります。
しかし、生真面目にルールを守ろうとするメーカーに日が当たらないのもまた事実。
結局は「売ったもん勝ち」になってしまうのが現実というものでしょう。
「で、どうやって品質を見分けるの?」という問いですが、答えは正直「分かりません」
プロならば全成分表示でかなり正確に品質は見抜けますが、化粧品は人によって『合う・合わない』が必ずあります。
もし肌質や髪質に合わない化粧品に出会ってしまっても、それは品質の問題だけではなく『合わない』化粧品に出会ってしまったとも解釈できます。
先ほども私のスタンスとして申し上げましたが、あなたが気に入って使っているのなら、それ以上のものはありません。
多少の例外はありますが、国内で買えるもので品質が悪く、明らかにデメリットの方が大きい化粧品はそんなに流通してないのではないかと思います。
まして手頃な価格で買えるような化粧品では、そこまで品質に差があるとも思えませんし。。
化粧品を製造・販売するということは、
①企画をする
②製造元を探す
③材料を集める
④容器や販促材料を手配する
⑤サンプル製造開始、安全性の確認
⑥完成品を運ぶ
⑦店頭に並ぶ
⑧在庫管理や商品管理
⑨販促活動やPR
と、ざっくり分けてもこれだけの工程を踏みます。
規模が大きくなれば関わる人の数も増え、予算的にとんでもない金額になるわけです。
つまり原料、製剤方法、香り、容器などにこだわり、大量生産するとなると、これはもう一大プロジェクトですよ。
まして全国のドラッグストアやコスメストアに並べるには、どこかでコストを下げないと利益が出ないということです。
どことは言いませんが。。
そんなメインストリームなマーケティングに乗らず、人知れずコツコツと良いものを作る小規模メーカーもあります。
簡単に手頃な値段で買える化粧品が魅力的なのは分かります。
ただ、いい加減な人たちが推してるものだけでなく、ちゃんと品質に向き合っているメーカーに目を凝らすのも大事かなと思います。