「クセ毛」の事実

「頭皮のたるみが毛穴を歪ませ、クセ毛の原因になる」という意見があります。
特にエイジングが気になる年齢層へ向けた発信が多く、そのまま鵜呑みにしている方も多いのではないでしょうか?

なので、
「頭皮をマッサージをしましょう!」
「毛穴のクレンジングをしましょう!」
という言葉に、希望を持った方もいると思います。

しかし、毛髪科学的な視点で見ると、この意見はかなり飛躍しています。
今回は「クセ毛の事実」を理解していただくと同時に「どのようにクセ毛を向き合うのか」について、解説いたします。

【パラとオルソ】

まず、髪の毛はお肌の真皮層にある「毛包」で作られます。
この毛包の底にある「毛母基」という場所で細胞分裂が繰り返され、それらが押し出される形で「毛幹(髪の毛)」として頭皮から生えてくるわけです。
そして、この毛包の形は遺伝的に決まっています

髪の毛は主に2種類のタンパク質でできており、それぞれ「パラコルテックス(以下、パラ)」「オルソコルテックス(以下、オルソ)」と呼ばれています。

■パラコルテックス
・水を弾きやすい(疎水性)
・タンパク質密度が高い
・システインが多い(S-S結合の密度が高い)
・固く、形状を維持しやすい

■オルソコルテックス
・水を吸いやすい(親水性)
・タンパク質密度が低い
・システインが少ない(S-S結合の密度が低い)
・柔らかく、膨らみやすい

という特徴があり、均等に混ざっていれば直毛に、偏って混ざればクセ毛に。
この2つの才能の含有量や分布のバランスこそが、直毛とクセ毛を分ける条件になります。

毛包が歪んでいると、内輪と外輪で細胞が分裂するスピードや密度に差が出ます。
その結果として「タンパク質の分布が偏った髪」が生まれるということです。
言い方を変えると「血行や毛穴の形は、クセ毛には直接関係しない」ということでもあります。

ちょっと意地悪な例えになりますが、もし「エイジングで毛穴が歪み、クセ毛になる(クセが強くなる)」のであれば、頭皮にたるみの無い子供の髪は全て直毛でないと、整合性がありません。

・髪のクセはパラとオルソによるもの。
・その原因は毛包によるもの。
・その原因の根本は遺伝によるもの。

まずは、このクセ毛のメカニズムを理解してください。
(※一般的な波状毛の話です。捻転毛や数珠毛などの縮毛はまた別の機会に説明します)

【マーケティングの闇】

パラとオルソの存在を知っていただいたところで「毛穴のケアで、どれくらいの効果が見込めるのか?」について考えてみましょう。

髪を作る「毛包」は肌の真皮層の深い部分にあります。
仮にエイジングで肌がたるんだとて、皮膚の最表面である表皮のたるみが毛包に与える影響は極めて限定的だと考えられます。
毛包全体の構造を歪め、髪の毛の形状を恒久的に変化させるというエビデンスが乏しいのも事実と言って良いでしょう。

エイジングによる髪のクセや歪みを否定するわけではありませんが、それはまた別のお話。
加齢によるホルモンバランス等の変化により、タンパク質や脂質(CMC)の質や量が変化することで、”膨らむ場所”と”膨らまない場所”の差が生まれると考える方が合理的です。

つまり、毛穴ケアによるクセ毛対策は「ユーザーに分かりやすく説明するために生まれた曲解」だと思っています。
先述したように、クセ毛は「2種のタンパク質の偏り」によるものであるため、頭皮ケアの直接的な作用は限定的だと考えられます。

そもそも、髪の構造を変えるにはS-S結合(髪の結合)の変化(還元・酸化)が必要不可欠です。
シャンプーなどでS-S結合を変えるのは不可能ですし、先述したように毛穴ケアは直接クセ毛に影響することはありませんので。

ハッキリ言ってしまえば「頭皮のたるみ=クセ毛の原因」説は、メーカーが用意した「頭皮ケア製品」を売りやすくするための”マーケティング用のストーリー”だと思います。

「頭皮がたるんだから、うねる」のではなく「髪内部のタンパク質・脂質バランスが崩れたから、うねる」が正解です。
仮に頭皮を引っ張り続けたところで、生えてくる髪の毛のアミノ酸配列が変わることはありません。

【クセ毛は自力では直せない】

ここで残念な事実ですが、クセ毛は自分で治すことは不可能です。

繰り返しお伝えしているように、頭皮ケアではクセ毛の改善はできませんし、いわゆる「クセ毛用シャンプーやトリートメント」も水分量や脂質量を増やし、髪を「重くする」だけで根本的な解決はできません。

髪の骨格を変えるのは「S-S結合を再編し、架橋構造で補強する」ことが最適解です。
そして、シャンプーやトリートメントでこの「S-S結合」を動かすことはできません。

クセ毛を伸ばす際は「縮毛矯正」を。
髪の構造を直接作り変え、曲がった毛を真っ直ぐに伸ばす必要があります。

エイジングによるパサつきやうねりなら「酸熱トリートメント」を。
髪内部の架橋構造を補強し、芯のある髪質に作り変える必要があります。

どちらが必要かは美容師の判断になりますが、基本的にはこの2つだけと理解してください。
必要なのは「頭皮の形を整える」というイメージ論で把握するのではなく「髪内部の結合を科学する」という、物理的な理解をすることです。

【まとめ】

ここまでお話しましたが、これらはあくまで「クセ毛に対する」お話であり、頭皮環境の改善が無駄なわけではありません。
保湿や血行促進などは強い毛を作る上で有用ですし、抜毛や白髪の予防としてはスタンダードな考え方でもあります。
ただ、クセ毛に対してはあまり意味が無いということですね。

また、クセを活かしたスタイルを考えるのも良いと思います。
継続的な縮毛矯正はコストと時間がかかりますし、定期的にかけ続けるダメージが気になる方もいるでしょう。

一つだけ懸念点として、「クセ毛を活かす」と言うと聞こえは良いですが、綺麗にスタイリングするにはコツが必要です。
単に「クセ毛のまま過ごす」だけでは、思い通りの仕上がりが難しいことは留意してください。

縮毛矯正や酸熱トリートメントには高度な技術が必要ですので、正直当たり外れのリスクはあります。
しかし、イメージ論ではなく物理的な事実に則った施術には、遺伝や加齢という抗えない事実を「デザインが可能」な髪質へとへ変えていく力があります。
これは誇張でも何でもなく、美容師業界の新しいスタンダードです。


「毛穴を洗えばクセが直る」というマーケティング。
メーカーが発信する耳心地の良い言葉に惑わされるのは、もう終わりにしましょう。
頭皮の形を整えても、生えてくる髪の設計図は変わりません。

美容師としても、ヘアケアメーカーとしても。
私たちが向き合うべきは表面的なイメージ論ではなく、髪内部の結合をいかに再構築するかという「物理的な事実」です。

「できることは、できる」
「できないことは、できない」

ハッキリと線引きをすること、その線引きを理解することがヘアケア業界の課題かもしれません。
正しい知識を持つことこそが、あなたの髪を理想の質感へ導く唯一の近道なのです。