抗炎症成分との向き合い方

クレンジングや洗顔料を選ぶ時。
あるいは美容液や保湿クリームを新調する時。
何を基準に商品を選んでいますか?

「抗炎症成分配合」という言葉に安心感を覚える方は多いと思います。
「肌荒れを防ぐ」「ニキビを防ぐ」といった医薬部外品の効能表示を、頼りにする人も多いのではないでしょうか。

しかしスキンケアブランドを運営する立場、そして研究開発の視点からお伝えしたいことがあります。
それは「抗炎症成分は肌の問題を解決しているのではなく、肌のサインを一時的にミュートしている」という事実です。

SNSでは、高濃度のビタミンCやレチノールといった「攻めの成分」と、それを和らげるための「抗炎症成分」をセットで語ることが一般的になりつつあります。

しかし、その「攻めと守りのバランス」というロジックの裏側に潜むリスクについて、一度立ち止まって考える必要があります。

今回は抗炎症成分のメリットとデメリットについて、解説します。

【抗炎症成分】

まずは、市場に出回る化粧品や医薬部外品によく配合されている成分の正体を知ることから始めましょう。

■グリチルリチン酸2K(ジカリウム)
最も代表的な成分。
甘草の根に含まれる成分を水に溶けやすくしたもので、優れた抗炎症作用を持ちます。
医薬部外品における配合上限は一般的に0.1%〜0.3%程度、洗い流さない化粧品においては0.5%です。
水溶性で非常に扱いやすく、安価であるため、様々な製品に幅広く使われます。

■グリチルレチン酸ステアリル
グリチルリチン酸の誘導体で、こちらは「油」に溶けやすい性質を持ちます。
主にリップクリームやクリーム、オイルクレンジングに配合されます。
油溶性のため肌への親和性が高く、長時間留まって炎症を抑え続ける力が強いとされています。

■アラントイン
消炎作用に加えて「組織修復賦活作用」を持ちます。
傷んだ組織の回復を助けるため、ニキビ跡やひび割れケアを謳う製品によく使われます。

■トラネキサム酸
元々は止血剤として使われていたアミノ酸の一種で、炎症を引き起こす酵素「プラスミン」を抑制します。
美白有効成分としても有名ですが、抗炎症(肌荒れ防止)として2.0%前後配合されることがあります。

これらの成分は、単体で見れば非常に安全性が高く、副作用も極めて稀だとされています。

【緩衝材として】

最近のトレンドは、レチノール(ビタミンA)や高濃度ビタミンCといった、肌に劇的な変化をもたらす反面、刺激も強い成分を使いこなす「攻めのスキンケア」です。
同時に、抗炎症成分を「刺激の緩衝材」として使うことも増えていると思います。

つまり、A反応(レチノイド反応)による赤みや、ビタミンCのピリつきを抑えるために、処方の中に最初から抗炎症成分を組み込むケースですね。
刺激を感じやすいスキンケアを成立させるために、複数のアイテムで抗炎症作用を得る使い方にリスクがあると考えています。

これは一見、ユーザーへの配慮に見えます。
一方で、視点を変えると「本来ならその肌には強すぎる処方を、抗炎症成分で無理やり黙らせて通している」という面を否定できません。

刺激成分で乱れたバリア機能を、抗炎症成分で火消しをする。
このサイクルを繰り返すと、肌は自ら炎症をコントロールする力を失う可能性が懸念されます。

場合によってバリア機能が弱まっていることに気付かず、抗炎症成分が入っていない化粧品を使うとすぐに赤みが出るような状態に陥ることも考えられます。
真面目にスキンケアを頑張る人ほど陥りやすい症状であり、最終的に皮膚科医に「何も使わないで」と言われた経験を持つ方も多いのではないでしょうか?

【肌の”観測性”の低下】

炎症は、肌からの「今、何かがおかしいですよ」というアラートです。

合わないクレンジングでバリアが削られた。
睡眠不足でターンオーバーが乱れている。
特定の植物エキスに対してアレルギー反応が出始めている。

つまり、身体を守るための生理構造とも言えるでしょう。
しかし抗炎症成分は、良くも悪くも、この「アラート」を抑えてしまいます。
「過剰な炎症が慢性化の原因になることもある」という研究もあり、積み重なった微弱な炎症に気づかないことが大きなデメリットになることも考えられます。

SNSやネット上では、よく「抗炎症成分は必須である」という意見を目にします。
個人的には、語られる背景には化粧品製造における「合理性」があると思っています。

① 配合の容易さとコストパフォーマンス
グリチルリチン酸2Kなどは、非常に安定性が高く、他の成分の邪魔をしません。
少量で「医薬部外品」の承認が得られ、マーケティング上の強い訴求性になるため、メーカー側にとってこれほどコスパの良い成分はありません。

②短期的なエビデンスの強さ
抗炎症成分には、数十年にわたる安全性のデータと、パッチテスト等での「刺激を抑えた」という明確な短期エビデンスがあります。

訴求性に加え、こうした優れた実績がハッキリと示せるわけです。
そして、こうした「エビデンスが揃っている」という事実は非常に有用です。

だからこそ、常用した際のデメリットに目を向けにくい、という現実にも目を向けなくてはなりません。

【まとめ】

一般的な見解として、「炎症が起こっている⇔起こっていない」に分けて考えがちですが、肌の炎症は常に水面下でくすぶっています。
必ずしも「肌に赤みや痒み、ヒリつきが無い=健康」となるわけではありません。

私は、抗炎症成分を全否定するわけではありません。
日焼け後の急性な炎症や、一時的な肌荒れの際の「お守り」としては頼りにすべきでしょう。
炎症を適切に抑えることは、健全な肌を守る上で非常に有益です。

お伝えしたいのは、使うことが悪いのではなく、常用するのが当たり前になることに対するリスクです。
ここで「健やかな時の日常使い」として、以下のスタンスを推奨します。

①ライン使いを避ける
化粧水、美容液、乳液すべてが「肌荒れ防止」である必要はありません。
トータルの曝露量を減らし、自分の肌が今、自力でどこまで安定していられるかを確認する「窓」を常に開けておいてください。

②引き際を知る
レチノール等を使う際、抗炎症成分で抑え込まないと使えない状態であれば、それは今のあなたの肌には「過剰」であると考えられます。
「攻め」の成分濃度を下げるか、頻度を落とすのが正しいスキンケアです。

③成分表示の「中身」を見る
「低刺激」というラベルに安心せず、その裏に抗炎症成分が隠れていないかチェックしてください。
理想的なのは、抗炎症成分に頼らなくても、界面活性剤や保湿による設計で刺激が抑えられている処方です。

本来のスキンケアの目的は、炎症を「隠す」ことではなく、炎症が「起きない肌」を育むこと。
あなたの肌が発する小さなサインを、成分で覆い隠さないよう気をつけましょう。

炎症は抑えるべきものであると同時に、あなたを守る「お知らせ」であることも意識してください。