「アミノ酸系だから安心だと思って使っていたのに、えりあしが痒くなる」
「赤ちゃんでも使えるベタイン系なのに、使い続けると頭皮が荒れる」
年間2000名のお客様を担当させていただくと、頭皮トラブルのご相談を受けることがあります。
SNS上では「硫酸系はダメ、アミノ酸系は良い」という単純な二元論が溢れていますが、現場で起きている事実はそんなに単純なものではありません。
むしろ、「マイルドで優しい」はずのシャンプーが、気づきにくい形で肌トラブルでを引き起こしている可能性があるのです。
今回はアミノ酸系とベタイン系を例に、処方研究にも携わるプロの視点から「優しさ」について、解説します。
-Warning-
※前もって念を押しておきますが、刺激やアレルギーはヘアケアだけの問題ではありません。
むしろ、
・ヘアカラー剤(酸化染毛剤=ジアミン)
・香料(リナロール、リモネン等)
・植物エキス類(溶媒も含む)
・防腐剤(もしくは防腐設計上の多量の抗菌配合)
などの方が、圧倒的に多いです。
また、界面活性剤によるアレルギーは「毎日使うもの」という前提があるため、原因として挙げられにくい背景もあります。
なので、頭皮トラブルでお悩みの方や、重篤な皮膚疾患の方など、頭皮に影響があるものを避けたい人へと向けた内容となっております。
あくまで「可能性の一つ」としてご覧ください。
(※当コラムは、旭化成、皮膚科学会、日本化粧品技術者会、日本アレルギー学会の研究データを参照しています)
「二極化」から「トレードオフ」へ

アミノ酸系やPPT系は保湿やダメージ補修の点では非常に優秀な素材です。
これらが持つ「高い吸着性」は、ダメージ毛に潤いや滑らかさを与えるという点では、現代のヘアケアにおいて欠かせないものだとも思います。
しかし、化学の法則として「髪に馴染みが良い」ということは、同時に「肌からも離れにくい」という側面を併せ持っています。
この機能と残留性のトレードオフを理解することが、肌トラブルを防ぐ第一歩です。
一方で、かつて敬遠された硫酸系(高級アルコール系)の界面活性剤。
その「流しやすい」特徴から、成分を肌に残したくないアレルギー体質の方にとっては、非常に理にかなった選択肢になり得ます。
低刺激なアミノ酸系で「成分を残して潤いを保つ」のか。
流しやすい処方で「肌をフラットに保つ」のか。
どちらが良いかではなく、今の自分の肌の状態にどちらが適切かという視点が重要です。
【”刺激”と”アレルギー”】
ネット上やSNS上では話題になりませんが、「肌への負担」は2つの種類があります。
それは「タンパク変性」と「アレルギー感作」
シャンプーの商品説明や実験等では「タンパク変性」のみがフォーカスされますが、シャンプーをした後に感じる痒みや赤みの原因はこれだけではありません。
まずはざっくり説明します。
①タンパク変性(物理的な刺激)


これは、洗浄成分が肌の角質層にあるタンパク質を壊し、バリア機能を奪う現象です。
よく言われる「アミノ酸系の優しさ」とは、この「タンパク変性率の低さ」を指しています。
使って直後に痒みや刺激を感じたり、肌が突っ張ったりするのはこれが原因。
一般的に硫酸系(高級アルコール系)が嫌われるのは、この変性率が高い傾向にあるからです。
②アレルギー感作(免疫反応)

アレルギーは、特定の成分を体が「敵」だと記憶し、免疫が過剰に攻撃を始める反応です。
これは「使ってすぐ」には分かりません。
数日から数週間、時には数ヶ月使い続けるうちに、ある日突然、えりあしや耳の後ろに耐え難い痒みや湿疹として現れます。
マイルドな洗浄性や保湿性などがアピールされるアミノ酸系やPPT系などの「生体に近い成分」は、肌のタンパク質を壊す力(変性)は低いです。
一方で、免疫系に「異物」として認識・記憶されやすい(感作)という、真逆のリスクを抱えています。
現在はドラッグストア等で販売されるパブリック製品にもアミノ酸系界面活性剤が主成分として、よく使われています。
「低刺激で保湿性があり、乾燥肌に向いている」
「マイルドな洗浄性で、乾燥肌でも使える」
これらの言葉に嘘はありません。
しかし、これらは「タンパク変性」にのみフォーカスしたお話であり、「アレルギー感作」についての話ではありません。
つまり、ネット上やSNS上ではタンパク変性だけが取り上げられるので、長期間使い続けた際のデメリットには触れられないという意味でもあります。
では、長期的に見た影響はどのように現れるでしょうか?
アミノ酸系やPPT系のアレルギーのメカニズムについて、触れていきましょう。
【残留しやすいメカニズム】
アミノ酸系やPPT系シャンプーが「しっとりする」のは、成分が髪や肌に「吸着しやすい」からです。
しかし、この吸着性(コンディショニング性)こそが、残留トラブルの原因でもあります。
界面活性剤には、水に馴染む部分(親水基)と油に馴染む部分(親油基)があります。
多くのアミノ酸やPPTは電荷的(アニオンとカチオンの引き合い)に、肌のタンパク質と強く結びつく性質を持っています。
特にダメージを受けた髪や肌は、濡れることで強いマイナスを帯びるので、より吸着性も強くなっていきます。
さらに、電荷的な結びつきだけでなく、分子レベルでのベタつきも発生します。
アミノ酸やPPTには水酸基(-OH)やアミノ基(-NH2)が豊富に含まれ、髪のケラチンタンパクと「水素結合」という吸着をします。
また、分子同士の間で働く微弱な引力(ファンデルワールス力)があり、PPTのように分子量が大きい成分は、髪や肌に”面”で吸着するため、良くも悪くも”落ちにくい”構造になっています。

皮膚上に長く留まり、皮膚自体のタンパク質と結合することで、アレルギー反応のスイッチを入れることがあります。
(ハプテン=不完全抗原といいます)
その「残った成分」が、すすぎの甘いえりあしや耳裏で体温によって温められ、バリアの弱まった肌に浸透していく。
これが、数週間後に始まる「謎の痒み」のメカニズムの一端だと考えられるのではないかと。
つまり、基本として「保湿性が高い=吸着性が高い」ということです。
言い換えれば「シャンプー後に髪がキシつく」のは「コンディショニング成分の残留が少ない」ということでもあります。
そして、頭皮に関しては「適切にすすぐこと」が極めて大事だということも覚えてください。
特に最近はしっとり(潤いを残す=吸着性が高い)仕上がるヘアケアが主流な背景もあり、そういった製品が次々とリリースされています。
商品の良し悪しの話ではなく、「しっとり優しく洗える」という陰には、こういったリスクも否定はできません。
「シャンプー後の流しが不十分だと、肌トラブルの原因にもなり得る」ということです。
【ベタイン系は安全か?】

アミノ酸系と並んで、肌に優しい成分の代表格とされるのが「ベタイン系」です。
代表的なのは「コカミドプロピルベタイン」や「ラウラミドプロピルベタイン」
(※ベタインもアミノ酸の一種です)
この成分の特徴は、目に入ってもしみにくいほど低刺激で、肌のタンパク質を壊す力が極めてマイルドな点にあります。
その安全性でベビーシャンプーや敏感肌用製品の主役として、幅広く使われています。
一方で、皮膚科学の世界では非常にアレルギー報告の多い「要注意成分」として知られています。
つまり、これほど優しい成分でも「どうしても肌に合わない」という方が現実にいるわけです。
皮膚科学的な視点で見ると、成分そのものの強さとは別の理由が隠れていることがあります。
その一因として考えられるのが、原料の製造過程でごく微量に含まれる「不純物(DMAPA=ジメチルアミノプロピルアミンなど)」に対する反応です。
つまり「タンパク変性=即自的な肌刺激」は凄く微弱でマイルドだが、「アレルギー感作=長期間の使用で肌荒れの原因」にはなり得るということ。
成分そのものの刺激(タンパク変性)は非常に低いのですが、体質によっては「アレルゲン」として認識されてしまうことがあるのです。
ですので、誰もが口を揃えて訴える「安心安全」の根拠は”絶対”ではないことは、覚えておいてください。
(※これはカニやエビのアレルギーと同じで、平気な人は全然大丈夫です。あくまで体質との「相性」の問題です)
【自分の肌の声を聞く】
シャンプー選びにおいて、「アミノ酸系=安全」という考え方は、現代ではちょっと古いと思っています。
例えば、泡質や安全性に強い花王様などは、高級アルコール系界面活性剤でも低刺激で使える独自の処方を編み出したりもしています。
幅広く使ってもらえる価格帯に抑えるコストの中で、安全性の向上に取り組んでいるわけです。
大事なのは、世の中に溢れる「マイルド」「優しい」といったイメージの言葉だけで思考を止めないことです。
もしあなたが今、原因不明の頭皮トラブルやえりあしの痒みに悩んでいるのなら、一度その「良かれと思って選んでいるもの」を見直してみてください。
使ってすぐにピリピリするなら、それは「物理的な刺激(タンパク変性)」
使い続けて数週間後に痒くなるなら、それは「成分の残留によるアレルギー(感作)」
の可能性があるかもしれません。
「潤いを残すこと」は大事なのですが、頭皮環境によっては「刺激物になり得るものは残さない」方を優先すべき時があります。
この違いを知るだけでも、あなたのこれからのヘアケア選びは変わるはずです。
それでもダメな場合は、いっそ「湯シャン」に切り替え、一時的に「何もしない」という選択をすることも大事だと思います。
洗うことの本来の目的は、何かを過剰に「与える」ことではなく、一日を終えた髪と地肌から不要なものをリセットすることにあります。
私が一番にお伝えしたいのは、SNSの情報よりも、あなた自身の肌が発している「サイン」を信じてほしいということです。
【まとめ】
というわけで、主に「タンパク変性」と「アレルギー感作」のお話でした。
ここまで言っておいてなんですが、これは「一般的な皮膚科学のセオリー」からは少々外れた考えです。
言い方を変えると「個人の経験則」だと思いますし、万人に納得いただける考え方ではないと思います。
しかし、セオリー通りのケアで肌トラブルが解決できない方が実際にいらっしゃいますし、私の提案で改善された方も実際にいらっしゃいます。
肌トラブルの因果関係の特定は、極めて難しいものです。
残念ながら「臨床的な証明や、エビデンスではまだ解決できないこともたくさんある」のも事実なんですね。
今回の記事は「学術的に判明していること」と「私個人の経験」による、特異な考え方です。
それをご理解の上、肌悩み解決の糸口になれば、幸いです。