SNS上では頻繁に取り上げられますが「サロントリートメント不要」という考え方があります。
「美容室のトリートメントなんて、数日で手触りが落ちるから意味がない」
「高いお金を払ってサロンケアをするくらいなら、毎日のホームケアに投資するべきだ」
という主張です。
一般ユーザーの声が大きいですが、美容師が同調することも少なくありません。
では、何故そういった声があっても美容室はサロントリートメントを導入するのか?
そもそも、本当にサロントリートメントに意味はあるのか?
今回はサロントリートメントの是非について、紐解いてみましょう。
【何故、不要といわれるか】

なぜ世間にこれほど「サロントリートメントは無意味」という認識が広がっているのでしょうか?
まずはその背景を整理してみましょう。
個人的に原因は分かりやすく、ある程度明確なものです。
それは、消費者の多くが「トリートメント=ツルツル」として認識しているからです。
また、サロンやメーカーもそういった”手触り”に注視してきた経緯があることも大きいと思います。
従来のサロントリートメントの多くは、「毛髪の内部補修+被膜形成」が主流だと思います。
ケラチン等のPPTで内部の凸凹を埋め、表面をコーティングでツルツルにすることで、手触りを向上させる設計です。
表面の被膜が日々のシャンプーで流れ落ちますので、閉じ込められていた補修成分も流出し、数日程度で元の状態に戻ることが懸念されます。
実際に、この通りの経過を経て「高いだけで意味が無い」と感じた方も多いのではないでしょうか?
それならば「ホームケアを頑張った方がマシ」と考えるのは自然な話でしょう。
消費者から見て、サロントリートメントの価値は難しいものになります。
しかし、これは「トリートメントの限界」ではなく、「コーティングに終始するシステムの限界」ということ。
もう少し具体的に解説していきます。
【何が違うのか?】

サロントリートメントとホームケアの本当の違いを理解するには、それらが毛髪の「どこに」作用しているかの理解が不可欠です。
【サロントリートメント】
・主に「毛髪内部の深い部分」にアプローチする。
・アルカリや熱などを利用し、一時的に毛髪の「入口」を開くことで、高濃度・高分子の成分を浸透させる。
扱うトリートメントの種類にもよりますが、ダメージでバラバラになりそうな髪の繊維を”補修成分”で繋ぎ止めるようなイメージです。
髪の「骨組み」そのものを補強する作業になるため、ダメージやエイジングによる髪の歪みを正すことで、綺麗な”面”を再現します。
また、これらの「内部補修成分」単品だけでは、基本的に手触りの向上はありません。
当然コーティングで滑らかさを付与するわけですが、ここがお客様が「実感できる」部分となります。
【ホームケア】
・主に「毛髪の一番外側」にアプローチする。
・表面を整えることで摩擦を減らし、ツヤ感を向上させる
自宅で行うホームケアが作用するのは、主にキューティクルと、その表面を覆う脂質「18-MEA」の領域です。
ホームケア製品は誰でも安全に使用できるように設計されていため、サロンケアのような「化学反応を伴うケア」をすることは処方上、かなり難しいです。
ホームケアの役割は、
①シャンプー後のデリケートな髪の摩擦を減らすこと
②ドライヤーの熱の影響を減らすこと
③油膜を作り、表面を保護すること
です。
つまり、
◆サロンケア→家の柱を補強する工事
◇ホームケア→壁を守る防護シート
のようなイメージになります。
このように、そもそもの役割が違うので、比べるものではありません。
【時間経過で比較する】

ここまで、サロントリートメントとホームケアの違いを説明しましたが、これだけではまだ不十分。
この違いに「時間軸」を加えて、考えてみましょう。
髪の毛は死滅細胞であり、肌の代謝と異なり、基本的に自律回復しません。
カラーや縮毛矯正もさることながら、日々のシャンプーや紫外線、外気の感想に晒されるだけでも傷んでいきます。
その上で、カラーや縮毛矯正をする際には、それらの化学反応に耐えうるだけの「体力」が残っていることが必須の条件となります。
サロントリートメントの本来の目的は「手触りの改善」ではなく、「次回来店時(数か月後)にできるだけ良いコンディションで、施術に入る」ためのものです。
髪の内部を強固にして、髪の体力を減らさないための下準備と言っても良いでしょう。
これらを無視して、度重なるハイトーンカラーた縮毛矯正を行えば、チリつきや断毛のリスクが生まれるからです。
同時に、毎日のシャンプーやブラッシング、紫外線などによる日常ストレスは必ず発生します。
そういった日々の負担をできる限り軽減し、髪を守り続けるのがホームケアの役割となります。
こうやって俯瞰的に考えれば、どちらも目的は同じ。
「綺麗な髪を維持して、次のサロン施術に備える」ことを目的としています。
【どっちも必要】

ここまでの説明で「要不要」の話ではなく、役割は違えど、目的は同じだということは理解していただけたと思います。
言い方を変えれば、「サロントリートメントをしているから、ホームケアは何でも良い」というわけではなく、「ホームケアを頑張れば、サロントリートメントは意味が無い」というわけでもありません。
本来は二人三脚になるべき関係なので、可能であれば、どちらも使うのが最も最適な答えになるでしょう。
一方で「髪にそこまで時間や予算を使えない」という方もいらっしゃいます。
これは私個人の意見ですが、もし同じ金額を使えるのなら、ホームケアに注力すべきだと考えています。
仮に、毎月5000円をヘアケアに使うとしたら、5000円のサロントリートメント1回よりも、毎日の5000円分のホームケアの方が良い状態を維持できると思っているからです。
実際の効果はさておき、日々のヘアケアの方が確実に効果を”実感”しやすいものです。
長く続けることが大事ですので、なるべく効果を実感できて、気分がアガるものの方が続きやすいのが道理ですね。
【酸熱・美髪トリートメント】

ここまで挙げた例とは異なりますが、酸熱成分を用いたトリートメント(ストレート)も少しだけ触れておきます。
一応は「トリートメント」の区分になっていることが多いですが、これらの作用機序は先述したものとは大きく異なります。
ユーザー目線では「すごくツルツルになるトリートメント」的な認識が強いようですが、全く別物と言っても良いと思います。
従来のトリートメントが「ダメージによる欠損部を埋める」のに対し、これらのトリートメントは「毛髪内部の歪みを直し、面を整えることでツヤを出す」ものです。
これは縮毛矯正の技術であり、場合によっては「形状記憶補正」のような言い方をしても良いでしょう。
ダメージを負った髪や、エイジングによる影響のある髪は内部のタンパク質が欠けており、ねじれや歪みが発生します。
そこに光が当たると表面で乱反射し、パサつきに感じるわけです。
酸熱トリートメントは酸とアイロンの熱を利用し、毛髪内部の歪みを強制的に直します。
くしゃくしゃのシャツに糊スプレーをして、アイロンで伸ばす作業に近いです。
極めて高度な技術が要求され、実際の効果も抜群ではありますが、「髪の体力を維持させる」わけではありません。
何度も糊で固めてアイロンをすれば、シャツが傷むように、場合によっては逆にダメージが加速することもあり得ます。
特に、「繰り返すことで効果が上がる」という意見には要注意。
本来は何度も繰り返す必要のないものであり、むしろ継続的にやらない方が安全だと思います。
【まとめ】
最後に、絶対的な事実を述べます。
それは「髪のダメージは100%不可逆的なものである」ということ。
髪は肌のような代謝がありませんので、どのようなことをしても復活することはありません。
「ダメージが治る」
「髪がよみがえる」
このようなアピールはあくまでマーケティングだと理解してください。
我々が行う最新の技術も薬剤も、自宅で行う丁寧なホームケアも、本質的には「髪を治している」わけではありません。
これ以上ダメージを蓄積させないよう、手段の幅を広げていくものです。
極論を言えば「サロンで完成した髪の状態を、出来る限り長持ちさせることを目的としている」が正解に近いと思います。
髪の体力を強固にするためのサロントリートメント。
その状態を守り抜くためのホームケア。
この2つが噛み合うからこそ、綺麗な髪質が守られるわけです。
優劣を競うものではなく、それぞれ役割の「選択肢」です。